ムクツナ
□貴方だけのお姫様 *
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ありえないわ、こんなの!
絶対にっ!
約束の時間に向かう場所は貴方がいる所。いつも以上に顔を引き締めて歩くの。
だって貴方には見せてはいけない。こんな私。
扉を家臣が開けるのを待って、ゆっくりと歩けば見えてくるのはいつもと同じ無愛想な顔。
「御機嫌よう、六道様」
そう、私の婚約者。
声をかければ彼は突然笑顔になる。一回片膝をついて慣れたように私の手にキスを送る。
そう、当たり前よ。これが。でも、まだ足りない。
「お久し振りです。今日はいつもと違って緩く髪を結んでおられるのですね。また一段と大人の色香を感じます」
「――、当たり前よ。私を誰だと思ってるの?」
「もちろん、世界で一番の姫様です」
そう、それでいいの。
貴方は私だけを見てればいいの。
揺れる馬車の中、いるのは私と貴方。会話なんてないわ。だって私が声をかけない限り貴方は話さないもの。
景色を見る振りして貴方を見れば、またあの無愛想な顔。
あのね、望んだのは私だけど。
「ちょっとくらい声かけたっていいのよ」
小さく呟いたそれは、馬車の音で貴方には届かない。あぁ、もどかしい。だけど、それも私のせいかしら?