ムクツナ
□勇者と魔王 *
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雲が空を覆う下に、存在感ある城が一つ。それを見つめる一人の人物は、拳を作った。
「待ってろよ、魔王!」
声を張り上げて歩き出す。片手には剣を持って。
広い廊下を通り、巨人程の扉にある小さな扉を開き、中へと突き進む。そして、辿り着いた大きな広間にそいつはいた。
バリバリ
「今日は寒いですねー」
「だぁ! 呑気にコタツで煎餅食ってんじゃねぇ!」
「おや、綱吉君。ご機嫌よう。今日も元気に魔王退治ですか?」
「魔王のお前に言われたくない」
コタツでぬくぬくと暖まる何とも間抜けな彼がこの世界の魔王、六道骸。
と、言っても一応人であるので、見た目も声も人そのものだ。
「クフフ、君みたいな女の子に負ける僕じゃありませんがね」
「ば、馬鹿にするな! これでも俺は勇者なんだからな!」
そしてその魔王の城に入り込んだ彼女は、勇者の沢田綱吉。名前はこんなんだが、一応女だ。
持っている細い剣を構えて骸を睨んだ。
「覚悟しろ、魔王!」
「クフフ…仕方ありませんね」
やっとその気になった彼は、大きく腕を振り上げる。同時に綱吉も走り出した。キラリと輝く剣は、だが空を刺しただけだった。
「クッフー…君の身体は気持ちいいですねぇ」
「はぁなぁせぇ! 珍しくまともに受けてくれると思ったら! やる気あるのかお前はっ!」
「君と争うなんて冗談でしょう? そもそも君レベル0でしょ? レベル100の僕に敵うわけないでしょ」
「ぅ……」
反論出来ずに綱吉は黙る。その間にも骸は息を荒くしながら彼女の身体を撫で回していた。
「だぁ、やめろ! 気持ち悪い! 大体お前魔王としての自覚あるのか!」
「ない」
「きっぱり言うなよ!」
「だってここ何にもなくて暇なんですよ。君が来てくれた時はまるで天使かと思いましたよ」
俺暇つぶしっ!?
ショックを受ける彼女の手を骸は持ち上げる。そしてちゅっと口付けた。
「なぁあっ! な、何すんだよ!」
「君へ愛の口付けを…」
「くっそ、馬鹿にしやがって覚えてろっ!」
だっと逃げ帰る彼女に骸はニコニコと手を振った。
そんなやり取りをもうかれこれ一週間は続けてる。