short story
□明けの明星
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低いエンジンの音が、朝の空気の中に溶けてゆく。
今まで抱えてきた大切なもの達に背を向けて、アクセルを踏んだ。
世界の全てを敵に回しても、自分が守らねばならないたった一つのものに気付かせてくれた彼が、私の後ろに座っている。
彼は明けの明星を一瞥し、
「いいのか?」
と一言。
呟くように言った。
その言葉には笑みが混じっており、私の心を全て見透かした上での、少し意地悪な問い掛けだと言うことを悟る。
子供のような問いに、私はバックミラー越しに彼に頬笑み、無言で返した。