ハジメテノオト 【前編】
□第6廻 歌
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** ティファ **
私はおもむろにカバンから猫のメモ帳とペンを出し、彼に差し出した。
「なんかあったらコレに書いてね」
彼は書く気は全くないだろう。
ペンは受け取らず、猫の写真の載っているメモ帳をパラパラめくりだした。
生粋の猫好き。
かわいいなぁ。
私は追い討ちをかけるように言った。
「弟君から聞いたよ?あなた生徒じゃないんだってね」
挑戦的な笑みで。
でも彼は動じず、“だから何?”とでも言いたげに睨み返してきた。
私は笑って、
「別に何もしないけどさ…隣、座るよ?」
どさりと隣に腰掛ける。
どうせ聞いても返事はないのだから、勝手に座ってもいいだろう。
また友達にもらったえびせんを取り出し、猫にあげる。
彼はえびせんを嬉しそうに食べている猫を見ていた。
あからさまに嫌な反応をされなかったので、このまま座っててもいいだろうと思った。
そしてちょっと勇気を出して聞いた。
「あ、あのさ…最初に会った日、聴いてた…?」
微妙に毎日気になってた。
授業時間に屋上で歌ってたなんて、あんまり褒められたもんじゃない。
というか恥ずかしい。
目をそらし気味に聴いてみると。
彼はゆっくり口を動かした。
それはわかってないと聞き取れない言葉。
あの日私が歌っていた歌。
“君と見つけた蒼い空”
そして彼はこっちを向いて。
“ざまぁ”
憎たらしい笑顔でこう吐いた。