骸雲小説2
□椿の花
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「明けましておめでとうございます」
トン、と両手を膝の前について雲雀君が頭を下げる。
黒い生地の着物の胸元から赤い薄着がちらりと見えているのを見て僕の心臓が少し跳ねた。
「どう、似合う?」
そのまま立ち上がると、くるりと袖を翻して回る。
長い袖がパタパタと揺れて綺麗というより可愛らしいイメージのが強い。
「似合うんですが、期待していたのとは違うといいますか…」
雲雀君に着て貰いたくて年末に仕立て屋でわざわざ仕立ててもらった女物の着物を渡すと少し眉を顰めた。
僕としては少し嫌がりながら恥じらう雲雀君を見たかったのだが、意外にあっさりと着てくれた。
「どう違うの?」
またくるりと一回転。
その少し楽しそうな雲雀君を見ていると七五三みたいで愛しくなった。
「雲雀君、可愛らしいです」
「う、わ!」
前から思い切り抱き付くと、勢い余って畳に倒れ込んだ。
倒れ込むのを見越して背中に手を回しておくと予想通り衝撃が走った。
「痛い…」
雲雀君がムッとしたように僕の腕を押し返す。
その手を空いてる手で掴むと、指先にキスをした。
そのまま人指し指、中指、とキスを落としていくとさすがに恥ずかしくなったのか力一杯手を振り解いてふいと顔を背けた。
それを見て僕は悪戯心を起こしてわざとその拗ねた柔らかい頬を撫でて優しく摘んだ。
「やめてよ」
少し痛かったのかギュッと目をつぶるのを見てクス、と笑うと雲雀君が睨んだ。
「やーです」
ふざけて言って雲雀君の甘い香りのする髪に顔を埋めると、着物に合わせて付けた季節外れの椿の花が鼻を掠めた。
「いい香りですね」
そう言って雲雀君の顔に顔を近付けると、キスされると思ったのか目をそっと瞑った。
さっき暴れたせいで胸元のはだけた着物が幼い姿から一気に大人びた姿に見せ、僕はしばらく見とれた。
「なに、キスするんじゃないの?」
ぱち、と目を開けると「期待したみたいじゃないか」と呟いて恥ずかしげに頬を染めた。
「ねえ、もうどいてよ」
よほど恥ずかしかったのかさっきよりも強い力で押し返されて少し息が胸の所で詰まった。
僕はそれに負けないように雲雀君の背中に回した手に力を込めると押したり引いたり、傍からみるとじゃれているようにしか見えないやり取りをする。
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