骸雲小説2

□臆病者にキス
3ページ/4ページ



「冷たいですねえ、雲雀君は」


11月の上旬にも関わらずもう街の大きな通りはクリスマスのイルミネーションで彩られている。
その中を楽しそうに、でも少しだけ憂いを含んだ表情で色違いのレンガを踏んで歩く骸に胸が痛んだ。
その背中に抱きついて引きとめるのは簡単なことなのに、その一歩が踏み出せなくて、胸の中のもやもやは消えてはくれない。
結局伸ばしかけた手をぎゅっと握りこみ、両手を擦り合わせるしかなかった。


「冷たいのは、いつものことでしょ」


「…そうでしたね」


ツンと、目の奥が熱くなって涙がこぼれた。

寂しい、悲しい。

どんなに想っても届かない、相手にされない、この行き場をなくした恋心は一番届いて欲しい相手には届かずに彷徨ってこの胸を熱くするだけ。
黙り込んだ僕を気遣ったのかレンガを踏む足がぴたりと止まり、骸が僕を振り返った。
何かを言いかけたその唇は少し開いたまま止まり、色違いの瞳は大きく見開かれた。


「どうして、泣くんです?」


涙を流す僕の頬に手が添えられる。
冷たいふりをしてみたり、気まぐれにこうして優しくしてみたりして、困惑した顔で首を傾げる骸がひどく憎らしく感じた。


「君なんか、顔も見たくない」


思い切り手を振り上げると、骸の手は弾かれてその拍子に僕の頬を微かに引っ掻いた。


「雲雀君、頬が…」


慌てる骸の声にも振り向かずに走りだす。
ときどき見せる、優しさなんかがあるから期待して、もっともっと骸が欲しくなる。
徹底的に、微かな希望でさえも吹き消すぐらいに冷たくしてくれれば楽なのに。
ふと立ち止まると、人々が行き交う雑踏の中で一人取り残されたような感覚に陥った。
別に骸が人を愛すことができないのは今に始まったことじゃないって解っているけれどなんとなく寂しくて、なんとなく悔しくなっただけ。
冷たくなった手にはあ、と息を吹きかけて擦り合わせると少し暖かくなった気がした。





.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ