骸雲小説2

□臆病者にキス
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骸がぽつりと呟いた。


「雲雀君には僕のことなんか、解るはずがないんです」


そしてさっきまで繋がれていた手がそっと、でもそれなりの力を込めて解かれる。


「僕と、雲雀君はこうして繋いでいる手の温度も、考えることも違う」


ふわりとマフラーをひるがえし、僕の顔を覗き込む骸は少しだけ悲しそうな顔をしていた。


「すなわち、違う人間。違う個体」


ぽんぽん、と僕の頭を二度優しく叩とそのままその手は頭の上に乗せられた。
さっきまで学校の話やら、クリスマスの予定やらを話していたから、突然訪れたしんみりした雰囲気に僕の頭はなかなか付いていけずに頭の上の大きな手をそっとどかす。


「だから雲雀君は僕のことを解るはずがないんです」


まるで、最初から解らないと決めつけているような口調で骸は言ってのけた。


「君の言葉はいつも理屈ばっかりだね」


それもへ、が付く理屈ばっかり。
そう言ってマフラーに冷えた鼻先を温めようと唇を暖かいマフラーの中に埋めると、僕の赤らんだ鼻先に熱い唇が触れる。


「つまらない男、ですか?」


「別に。もう慣れた」


顔を左右に振り、その熱さを忘れようとする。
こいつはいつもこうして、僕の気持ちをはぐらかしてしまうから決して本気にしてはいけない。
この鼻先に灯る熱い熱は嘘っぱちで、繋いだ手の先の指の冷たさだけが骸の本当の心の中だって解っているから。

決して相手を愛さない、いや、愛せない骸。

いたずらにキスをして僕を近付けるだけ近付けておいて、真剣に見つめあうとふいと視線を逸らしてしまうようなそんな無責任な、遊び人。
僕はそんな骸を知っているから本当はこの唇の熱が本物なのかもしれないけれど、いたずらなキスの合間の真剣な瞳が本物なのかもしれないけれど、それを信じて裏切られたときに立ち直れる自信がないから僕はそれを信じない。

だから結局は僕も臆病なんだ。

人を愛せない遊び人の骸と、好きな人を信じることができない臆病な僕はある意味お似合いなのかな、と冷めた頭が呟いた。



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