骸雲小説2

□眠れないのは
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温かい毛布を首まで引っ張ってみても、温かいココアを飲んでも、何度も寝返りを打っても眠れない。
目を開けたまま眉間にしわを寄せて枕に顔を押し付ける。ただその繰り返し。


「眠れない…」


言葉にしてみても、ただその言葉が虚しく部屋に落ちるだけ。こんな時、無性に寂しくなる。ほう、とため息をつく。
眠れない理由なんてわかっているけれど、それを口に出したら負けのような気がしてきゅっと唇を噛みしめてベッドサイドの着信のない携帯電話を見ないようにした。
喧嘩の理由は本当にただのくだらない理由だった気がする。
僕のいつもの冷たい口調に最初は苦笑いを零すだけだった骸が「キスが長くて嫌だ」と言った途端に真顔になった。
その後少し肩をすくめて寂しそうな顔をするとそっぽを向いた僕に何も言わずに部屋から出て行ってしまった。

本当はキスが長くて嫌だ、なんて思っていないのに。

何であんなこと言っちゃったんだろう。
骸もどうしてあんな寂しそうな顔をしたんだろう。

後悔で、昔忘れたと思っていた爪の先を軽く噛む癖が無意識に出る。
どんなに後悔しても、素直に謝ることができない僕は携帯電話に手を伸ばしてあの優しい声を聞くことができない。
そのせいで眠れないのだ。
眠る前にまるですぐ隣で一緒に眠っているかのように小さく囁くような声で「おやすみなさい、雲雀君」の声を聞くことができないのがこんなに辛いなんて。


「出掛けよう」


布団をめくり上げて、体を起こす。
このままごろごろと布団の中を転がっているだけじゃ眠れないのは解っている。
外の気温をそのまま表わすような冷たい床に足を着けると背筋を寒気が駆けあがった。


「寒い…」


どっちが寒いのかは解らない。体か、それとも心か。




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