骸雲小説2

□背中ごしの微熱
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「見るの、大きい家だけでいいからね」


レンガの道を歩きながら左右の家をせわしなくきょろきょろと見回して品定めする。
二人暮らしには丁度よさそうな一般住宅は飛ばして、大きな別荘用の建物ばかりに目を向けている雲雀君の目は輝いていた。


「楽しそうですねえ」


「当たり前でしょ、やっと僕の家が建つんだから」


「僕たち、でしょう?」


「土地代は僕が払うんだから、僕の家だよ」


「建築費払うの僕ですけど…しかも正直にいうと雲雀君の要望通りに大きな家を建てるとすると土地代より建築費のがかさみそうな予感がするんですが」


一千万軽く越すでしょうね、なんて現実的なことを考えて自分の預金通帳を思い浮かべる。
あっちの口座とこっちの口座に溜めたお金を合わせればローンなんか組まなくても買えるはず、はしゃぐ雲雀君の隣で頭をフル回転させて計算する。

よく「貴方と二人だけいればいい、他は何もいらない」なんて綺麗ごとを呟く人もいて、たしかに僕は雲雀君と二人きりでいるのはすごく幸せなことだとは思うけれど。
でも何もなくても幸せ、なんて考えられる程僕は人間ができてないし、雲雀君だってそうだろう。
やはりこんな時、幸せを手に入れるにはある程度の豊かさは必要なのだとしみじみ思う。

あまりにも夢のないことだけど、やはりそこは僕も譲れないところで。
大人になるってこういうことなのかな、とぼんやり思ったりするわけで。


「あ、あの白い家見に行こう」


僕の考えていることも知らず、少し軽い足取りで歩きだす雲雀君に呆れるのと、そんな雲雀君への愛しさでよくわからないけれど笑みが僕の口許に浮かんだ。
雲雀君はいつまでもこんなふうに子供みたいでいて欲しい、そう願う。
くるくると変わるようになった表情はそんな雲雀君にぴったりだ。
愛しい、僕の唇は意図せずにその言葉を紡いだ。


「骸、ここ玄関ホール広いよ」


雲雀君が木製の枠に綺麗なステンドグラスをあしらったドアを開けたり閉めたりして満足そうに僕の方を振り向く。


「ベネチアンガラスですね」


そう言うと、雲雀君濃い青と淡い緑のガラスを覗き込んで少し微笑んだ。


「このガラスの色、骸の目みたい」


その言葉と、少し頬を赤らめた横顔があまりにも優しかったから、僕は雲雀君の隣に立ったまま少しの間動けないでいた。まるですぐ壊れてしまいそうな脆く美しいガラスみたいだ。


「骸…?」


そっと隣に立った雲雀君頬を人差し指で撫でて、睫毛に指先で触れると目をぎゅっとつぶった。
その瞳を閉じたままの顔がまるでキスをねだっている時のような顔に見えて、その瞼の上にそっとキスを落とす。
僕の唇が触れた途端、雲雀君の体が少し緊張したように固くなった。


「骸の唇、熱い…」


目をゆっくりと開いてそう言った雲雀君は僕の唇の熱を冷ますように右手で瞼に触れた。




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