骸雲小説2

□盲目の恋
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「盲目の僕と、言葉が紡げない雲雀君」


僕らは決して解り合うことができないのは。

骸には見つめ合う目が、ないから。
僕の愛を語るべき唇は重い溜め息を吐き出すことしか、できないから。


「雲雀君の顔は、きっと美しいんでしょうね。柔らかい短髪、鋭い瞳に通った鼻筋の…」


僕の髪に添えられていた手が外されたかと思うと、骸は顔を覆ってしまった。
細い指の間からは、涙がぽたり、ぽたりとズボンに落ちてしみを作った。


「雲雀君を見て、雲雀君に愛を囁いてもらえたらどんなに幸せでしょう」


小刻みに震える骸の背を撫でると、勢いよく抱き締められた。
その力の強さに、僕の体の骨が軋む音がする。
もういっそ、自分の体は壊れてもいいと思った。
骸に抱き締められて壊れるなんて、なんて幸せなんだろう。


「雲雀君、僕に一度だけ、愛を囁いてはくれませんか。どんな方法でもいいですから、一度だけ」


か細い声で哀願する骸に僕の目から涙が零れた。
その粒は顎を伝い、骸の手の甲の上に落ちる。


「雲雀君、泣いているんですか」


抱き締めていた力を緩め、骸が顔を上げる。
しかしその目は開くことはなく、伏せた長い睫毛が涙に濡れているだけだった。
その瞑った目から涙が伝うのを見て、僕は余計に悲しくなった。
でもどんなに悲しくても声をあげて泣くことができない。
この、悲しさに叫びたい気持ちは僕の口を突いて出ていきはしない。


「泣かないでください」


骸が袖で僕の涙を拭う。

大好きだと、愛していると伝えたいのにこの唇からは伝えることができない。
骸の目には見えないから文字にして伝えることもできない。

そんな僕らは、結局。


「結局、雲雀君も僕も、不幸なんですよね」


骸が濡れた頬を拭って精一杯の顔で微笑んだ。


ああ。
僕は骸が好きで、好きで、大好きで。

愛しくて恋しくて胸が震えるほど愛している。


この胸に灯る想いをどうやって伝えたらいいんだろう。
伝える手段を奪われてしまった僕は、一体どうやって骸に愛を囁けばいいんだろう。


「雲雀君、キスしましょう」


言葉で伝ええられないから、キスをして抱き締め合うことが、僕らの愛し合う形。
普通の恋人となんら変わりのない行為なのに、情けなく涙を流すのが、僕ら。


「視覚が奪われてると、この世界は僕と雲雀君だけみたいに感じます」


骸が僕の肩に頭を寄せて囁く。
いっそ、そうなればいいと思った。
この広い世界の中でずっと二人で寄り添っていられたら。


「雲雀君を見て、声が聞きたいです」





どんなに願っても叶わない願いだけが、僕らの間に落ちた。






Fin.
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