骸雲小説2

□盲目の恋
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骸が、ぺたぺたと僕の顔を触る。
慣れたいつもの動作に僕はじっとしたまま骸の感触に溺れる。

最初は僕の頭の先に手を伸ばし、しばらく撫でた後、髪の毛を触ったり指に絡め取ったりする。
それに飽きると今度は額の上を手が滑り、間も無くそこに柔らかい唇が落とされる。
眉の形をなぞり、睫毛を指の腹で挟んだまま引っ張られて少し痛くて涙が滲んだ。


「もどかしい、です」


ぽつりと骸は呟くと、手を握ったり開いたりして結局ぎゅっと握ってしまった。


「もどかしさで、気が変になってしまいそうです」


そう言うと、少し力のない指が僕の鼻筋を辿ってゆく。
その指はさらに下へと移動して僕の唇を探し当てると、ぴたりと動きを止めた。


「雲雀君の唇は柔らかいですね」


少し舌を出して唇の上の指先を舐めると、骸がクス、と笑う。
伏せた長い睫毛が頬に影を作り、男なのに美しいという言葉がぴったりだと思った。


「キス、してもいいですか」


骸は僕の頬を両手で挟み込むと、そう尋ねた。
軽く頷くと、すぐに唇が重ねられる。
押し当てるだけのキスだけじゃ物足りなくて、深く口付ける。
軽く目を開けてみると、骸は少し眉を下げ、切なげな顔をしていた。
一度離れて、最後に名残惜しそうに僕の唇に触れるだけのキスをした。
水気を含んだ唇は離れていく時にちゅ、と音を立てた。


「キスをすると、雲雀君の感情がよくわかります」


そう言うと骸は優しく微笑んで僕を抱き締めた。


「僕のこと好いてくれてるんだって、この唇の熱が教えてくれます」


骸は僕をぎゅっと抱き締めたまま離れようとしない。
僕が頭を骸の肩に擦り付ければ、手が添えられた。


―もどかしい。


僕も小さく心の中で呟いた。
こんなにも骸と僕は近くにいるのに、僕達は決して解り合えない。
絶対に、解り合うことはできないのだ。
骸は僕の唇から感情を読み取るけれど、僕は骸の顔から感情を読み取る。
骸は流暢に言葉を紡ぎ出すけれど、僕は小さな声で心に囁くだけ。

そんな僕達がどうやって同じ感情を共有できるというのだろう。


「僕と雲雀君は、どちらが不幸だと思いますか」


静かな部屋に骸の声だけが鮮明に響いた。
ふと、骸に目をやれば瞑ったままの目から一筋の銀色の涙が流れ落ちていた。




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