骸雲小説2
□最高気温32℃
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「骸、もうダメ」
「ええ、僕ももう…耐えきれません…」
「この暑さでクーラー壊れるって最悪のシチュエーションだよね」
「今日最高気温32℃ですよ?」
僕は窓際で団扇をしきりに煽ぎ、微かな風でも確保しようと躍起になり、骸はもはや動く気にもなれないらしくぐったりとソファーに寝転がったまま微動だにしない。
日当たり良好な僕たちのマンションは、午後2時を過ぎた辺りからどんどん室温が上がり始め、暑さの苦手な骸がクーラーに手を伸ばしたところ、動かなかったという過程で今に至る。
「…今室温何度?」
「33℃…です…」
骸はクーラーのリモコンを緩慢な仕草で取ると、ちらりと一瞥してそう告げた。
室内には微妙な沈黙が流れ、骸がリモコンを机の上に放り投げた音だけがやけに大きく響いた。
そのあと、二人揃って目を大きく見開いたまま見つめ合うと、次の瞬間うへえ、と呻き声を洩らす。
「最高気温、32℃までじゃないの?」
最早溶けるのも時間の問題です、と言う骸の蚊の鳴くような声にもひたすら引きつった苦笑いしか出てこない。
「このままじゃ確実に人格が崩壊します、出掛けましょう」
「どこに?群れてる所はいやだよ。視覚的に暑い」
そう言えば骸はうー、と低く唸りながら恨めしそうにこっちを見た。
「今日、火曜日なんで唯一のオアシスだった図書館が休みなんですよ…」
暑さでただでさえ二人とも機嫌が悪いのに、これ以上僕がわがままを言おうものなら今のとてつもなく心の狭い骸は爆発する。
そう踏んだ僕は小さく溜め息をついて頷いた。
「わかったよ、涼しければどこでもいい」
「じゃあ、早速行きましょう」
僕の返事を聞くや否や、さっきまで死体のようにソファーに横たわっていた骸の体は軽々と飛び起きた。
「まさか、君…!」
「決まってるじゃないですか。術士の僕が暑さなんて感じると思います?全ては雲雀君とのデートの為の演技です」
クフフ、と悪そうな顔で笑ってじりじりと僕の方へ近寄ってくる骸から逃げて後ろに下がれば、背中が固い壁にぴたりとくっついた。
骸が僕の唇をやんわりとついばんだ時、腐っても術士、という言葉が頭をよぎった。
「…やられた…っ」
デートです、とはしゃぐ骸は僕の抵抗をものともせず、最終的には僕は軽々と抱きかかえられて無理矢理外へと引っ張りだされた。
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