骸雲小説2

□耳元で囁くのは
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「え、あれ雲雀君…」

正一は僕の固まった顔を見て、少し怯えた表情でもう一度指を教室へ向ける。
僕はその指の先をゆっくりと辿った。

その先に。

今まで逆光で見えなかったが、目を凝らすと白蘭の後ろ姿の向こう側から見慣れた小柄な体と黒髪が見えた。

「雲雀…君」

信じられない。
雲雀君が、他の男の腕の中にいるだなんて。

キスを許しただなんて。

信じたくない。
胸の中には狂おしいほどの嫉妬と独占欲が渦巻き、顔を歪める。
そんな醜い自分に我慢できず振り切るように立ち上がり、ドアの前に立った。

「骸っ…!!」

雲雀君が僕に気付き、顔を真っ赤に染めて僕の名前を叫ぶように呼んだ。

「正チャン!!」

白蘭も振り向き、僕の後ろに隠れるように立っている正一に気付き慌ててこっちに駆け寄って来る。

「雲雀君は僕のこと、好きじゃなかったんですね。」

窓際で動けなくなっている雲雀君の目は見れず、下を向いたまま話した。
嫉妬に狂っている僕の心を悟られないようになるべく普通にしようとしたが、どうしても声が震える。

「骸、何言って」

「今まで無理矢理付き合わせたりして、すみませんでした」

雲雀君の言葉が聞きたくなくて、言葉を途中で遮って頭を下げた。

「正チャン、骸クン、これは…」

「言い訳はいいです!!」

弁解をしようとしたのか、僕の前に立った白蘭に今まで黙っていた正一が大声で怒鳴った。
白蘭はその怒鳴り声にぴたりと動きを止めて目を大きく見開く。
僕も雲雀君に手を出した白蘭が憎らしくて逆恨みかもしれないが、鋭く睨み付けた。

「骸、行こう」

ふい、と白蘭から視線を逸すと正一は僕の腕を掴み走り出した。

「正チャンッ!」

白蘭が傷付いた顔で必死に正一へと手を伸ばす。
その手は正一には届かずにぱたっと服を叩いて落ちた。


「骸…」


僕はその奥に佇むの雲雀君と一瞬だけ目が合った時、スローモーション映像を見ているように感じた。
夕日に照らされた白い頬には、一筋の涙が流れていて、漆黒の瞳には涙が溜まっていた。

「骸ぉっ…!」

背後からの雲雀君の悲痛な声を聞き、心は戻れと叫んでも体は正一に引っ張られてどんどん遠ざかって行く。
廊下の先の曲がり角で少し振り向いた先には、顔を両手で覆う雲雀君と呆然と立ち尽くす白蘭がいた。

「雲雀君…」

僕の愛しい、雲雀君。
でも君が僕より白蘭を選んだのなら、僕はもう必要ないんですよね。

ずっと不安だったんです。

雲雀君は好きだとは決して言ってくれなかったから。
でもそれは僕より好きな人がいたからで。

「白蘭さんっ…」

正一も階段を駆け降りながらボロボロと涙を流していた。
きっと僕達は同じ気持ちだろう。
愛する人に裏切られた悲しみと、嫌いになんかなれず、好きだという気持ちが今なお心にあって。

両方の気持ちを持て余して苦しくて、胸が締め付けられる。
正一は本当は白蘭に追いかけて来て欲しいのだろう。

僕だって、今すぐ雲雀君の元へ駆け戻って涙を指で拭ってあげたい。
でももう、引き返すことはできない。


もう、さよならなんですね。




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