骸雲小説2

□夏の夜の夢
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「骸、寝れない」


おやすみ、を言って十分も経たないうちに寝室に続くドアが開き、不機嫌な声が降ってきた。
ペンを走らせる手を止めて目を向けると、ぶかぶかのパジャマを着てドアに寄り掛かる雲雀君と目が合った。
明るい部屋に目を慣らそうと、いつもよりたくさん瞬きをしている雲雀君が可愛らしい。

雲雀君の新たな一面や、癖を見つける度に、こんな姿を見せるのは僕だけにして欲しい、そんなふうに思ってしまう。


「おやおや、まだベッドに入って十分も経ってないじゃないですか。もしかして一人じゃ寝れないんですか」


僕が入院する前は、必ず一緒にベッドに入って他愛もない話をして、どちらともなく眠りにつく。
大抵は雲雀君が僕の胸にすり寄って、ゆっくりとした寝息を立て始めるのだが。
そんな毎日を繰り返していた。

しかし、久し振りに家に帰ったのに今日は健康表の記入をしなければならず、眠そうにしていた雲雀君には先にベッドに入ってていいですよ、と言った。
そう告げたときの雲雀君は、なんとなく戸惑ったような泣き出しそうな顔をしていた気がする。


「寝れないんだ」


そう言って雲雀君は僕の前の席に座った。
よく見ると、雲雀君の目の下には薄いけれど隈ができていた。


「雲雀君、貴方寝不足でしょう!」


強い口調で言うと、雲雀君はこくんと頷いて俯く。


「どうして、寝不足なんですか。取りたてて仕事もそんなになかったと思うのですが」


黙って俯く雲雀君を下から覗き込むと、その黒石のような目に涙を溜めていて驚いた。


「もう、一人は嫌だ」


パジャマの裾を握りしめる雲雀君の手は可哀相なくらい震えていた。


「嫌だよ」


僕の目を見ずに、頭を振りながら繰り返した言葉は甘く僕の胸を焦がした。


「雲雀君」


狭いテーブルの反対側の雲雀君の頬を両手で挟んで引き寄せると、唇に噛み付くような乱暴なキスをした。
唇を離すと、雲雀君の潤んだ瞳からぽたりと涙が零れた。


「どうして、泣くんですか」


「…どうしてだろうね」


「どうしてそんなに悲しそうな顔をするんですか」


「どうしてだろうね」


最近の雲雀君は僕に何も教えてくれない。
何か隠していることくらい、僕にはすぐに分かってしまうのに。
それでも雲雀君は嘘をつく。
僕を傷付けないようにつく嘘なのか、それとも自分が傷付けないようにする嘘なのかはわからないけれど。


「泣かないでください、悲しまないでください」


それは僕の身勝手な言葉。
優しくして、ドロドロになるまで愛して、雲雀君の人生を僕のものにして。


僕なしでは生きていけないようにする、甘い罠。



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