骸雲小説2
□風船ガム
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「可愛い、ですね」
「何が」
「煙草が吸えないからってお菓子に依存している雲雀君が、ですよ」
そのまま、ちょっと面食らった顔をしている雲雀君の唇へと口付けた。
いつもは煙草のヤニの苦い味のする唇は、甘い葡萄の味がして、思わず目を開ければ目の前の愛しい恋人は頬を赤らめ、目をつぶって少しとろんとした顔で僕のキスに応えていた。
柔らかな唇は糖分で意図せず吸い付き、離れる時に軽くちゅっと音を立てた。
「僕はこっちの方がいいですね」
「どういう意味だい?」
「禁煙中の雲雀君の唇の方が甘くておいしいから好きですよ。今までは苦いヤニの味ばかりであまり好きじゃなかったんですが」
そう言って笑いかければ、じっと考え込んでいる雲雀君。
そして不意に僕の唇に唇を重ねた、と思ったら下唇だけをゆるく食まれた。
そして上下の唇で僕の下唇を挟んで引っ張る。
「何、するんですかっ!」
唇に走った痛みに顔をしかめ、少し強く押し返して唇を離すとさっきより顔を赤らめている雲雀君が目に映った。
雲雀君はじっと見られていることに気付くと頭を僕の肩に甘えるように擦り寄せて顔を隠した。
赤く染まった耳が可愛らしくて、手を背中に回してきゅっと抱き締める。
こんなふうに自分から歩み寄って来てくれるようになったのはいつ頃からだっただろうか。
10年という月日は雲雀君をも変えた。
でも僕は、今の雲雀君の方が好きだ。
少しだけ前より素直で、少しだけ甘えてくれる雲雀君が僕は大好きなんです。
不意に雲雀君が肩から顔を離して僕の目をみつめた。
「骸の唇のが、ガムより美味しい」
その言葉が僕の耳に届いた時、不覚にも心臓が跳ねた。
するりと僕の首を撫る細い指に、背中がぞくりと粟だつ。
「ね、食べててもいい…?」
僕の腕の中でねだるように首を傾げて妖艶に微笑む雲雀君はくらりとするほど扇情的だった。
「…好きなだけ、どうぞ」
ふっとため息をついて、諦めたように口付ければ、また唇をあまく食む雲雀君。
ふわりと鼻をかすめるのは微かな葡萄の香り。
そして腕の中に収まるのは、いつもよりも甘えん坊な禁煙中の、可愛い恋人。
できるならこれからもずっとずっと、禁煙をしていて欲しいなんて、僕はわがままでしょうか。
Fin.