骸雲小説
□蝉しぐれ
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「雲雀君は、人間も死ぬ時が美しいと思いますか?」
ふいに骸が小さな声で尋ねた。
「どうだろ…」
振り向いて、骸の顔を見るとやけに真剣な顔をしていて、少し驚いた。
「僕は…桜とかだったら散り際が美しいと思うけど。でも人間はそううまくいくものじゃないとおもうよ。死ぬ事を怖がらずに、穏やかに死ぬ事なんて不可能だよ。生きることに縋って、縋りつくのが人間らしい。それでこそ、人間くさい、人間だと僕は思うけど」
たどたどしく言葉を紡げば、骸が柔らかい瞳で僕を見つめていた。
「今日の君はずいぶんおしゃべりですね」
くすり、と笑って骸が僕の髪を優しく撫でた。
これは甘えてもらいたい時の骸の合図。
だから僕も骸の肩に頭を預けた。
「僕は、美しく死にたいです」
肩の上で骸がぽつりと呟いた。
「今までありがとう、さよなら、なんて笑って言って死ねたらいいです」
「そんなの、無理だよ」
「でもその方が、残った人の記憶には鮮やかに残るじゃないですか。死んだ後も美しい思い出として、思い出すたびに泣いてもらえるじゃないですか」
なんだかやけに真剣な声で骸が言うから、不安になった。
「骸、君死ぬの?」
「今の所、死ぬ予定はないですけど」
「じゃあやめてよ、こんな話。骸は僕と百まで生きるんだよ」
「それはずいぶんと長いですね」
頬を緩ませて指を絡めてくる骸にまた、僕は強く抱きついた。
「夏が、来ますね」
ふわり、とカーテンを揺らす風は生暖かかった。
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