骸雲小説

□蝉しぐれ
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T.ひまわり


「蝉って可哀想だよね」


「どうしてですか?」


「だって長い間暗い土の中にいて、やっと外に出る事が出来たと思ったら、一週間で死んじゃうんだよ」


そう言ったら、骸はちょっと考え込んだ。


「儚いものにこそ美しさがあるっていうのが日本人の美的感覚なんじゃないですか?僕が知る限りでは、日本人は散り際の美しさっていうものに異様なまでの美しさを感じる生き物だと思っていました」


「まあ、一般的にはそう思われてるみたいだけど」


「そうですか」


静かに呟いた声に不思議に思って振り向けば、骸はガラスのように透き通った目で空を眺めていた。


「骸」


その時の骸はすごく儚気で、手を離したらどこか遠くに行ってしまいそうで、僕は強く、骸に抱きついた。


「なんですか、雲雀君、甘えたですか」


くすっと笑って骸が背中に抱きついた僕の腕に手を添えた。


「骸、どこにも行かないで」


安っぽいオンナのような台詞に我ながら馬鹿らしいと呆れる。
それでも骸はあやすように手に絡ませた僕の腕を、ポンポンと叩いて微笑んだ。


「僕はここにいるじゃないですか、雲雀君」


だって君がそんな目をするから。
僕の手の届かない所を眺めるから。
心配になったんだ。




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