骸雲小説2

□生徒の捕まえ方
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僕の肩に頭を乗せてすり寄るきまぐれな、でも愛しい僕の黒猫。



生徒の捕まえ方



「骸ー」


呼び捨てにされた時はだんまりを決め込んで机に向かっている。

そうすると、彼は向かいの席から椅子を移動してきて、僕の横に腰掛ける。


「骸センセー」


「なんですか、雲雀君」


「なんでもない」


ふあ、と大きな口で無防備に欠伸をする。

用事がないなら呼ぶな、と心の中で激しく毒づいたが、もちろん口には出さない。

だって雲雀君は一応大事な生徒だから。






「骸先生、今日泊まってく?」


すり寄った雲雀君が口を開いたかと思ったら、いきなりの爆弾発言。

丸つけをしていた僕の手はぴたりと止まって紙の上を滑った。


「泊まりませんよ」


冷静な声を出そうと必死に努力して、上目遣いの雲雀君の頭を軽く叩く。


「痛い」


さっきの媚びた顔から、いつものキッとした顔に変わって僕を睨み付ける。

そう、その顔の方が好きです。

でも雲雀君はまた視線を落とすと、僕の服の裾を握った。




「サビシイ、の」


独身オンナの十八番のような言葉を雲雀君は言うと、僕の胸に体を押し付けた。


「僕が寝るまででもいいから、側にいてよ…骸先生」


それをあんまりにも寂しそうにいうから。

僕は中学生に丸め込まれて、雲雀君が寝るまで、という約束を承諾してしまった。








「骸先生、風呂は?」


「僕は家に帰ってからにしますから」


風呂上がりの雲雀君は、ポタリと髪から滴を落とした。

中学生のくせに、ものすごい色気ですね。

僕は思わず白い首筋とパジャマからのぞく鎖骨に目が釘付けになった。

別に、鎖骨フェチとかじゃないんです。

ただ、純粋に色気に当てられただけで。


「そう、じゃあ骸先生はここ」


中学生が使うにしては少し広過ぎるベッドに腰掛け、雲雀君は自分の隣の場所をぽんぽん、と叩く。


「だから寝ませんから…僕はここでいいですよ。どうせすぐ帰りますし」


そう言ってベッドに腰掛けた。


「やっぱり帰っちゃうの」


きゅっと切なそうに細められた瞳に僕は少し笑みをもらした。


「雲雀君が寝たら、帰りますよ」


そう言って寝転んだ雲雀君の黒髪を撫でてやれば、腰掛けた僕の背中にすり寄ってくる。

まるで猫みたいなその動作が可愛らしい。


「温かいですね、雲雀君は」


時計の音だけが響くこの静かな部屋で、背中の温もりがやけに愛しく感じた。


しばらく、背中を優しくたたいてやればすやすやと小さな寝息が聞こえるようになった。

振り向けば、無防備に眠る雲雀君。


「おやすみなさい、雲雀君」


僕はそっとその温かい頬に唇を押し当てて、部屋を後にした。










「寝たふりなんか、するんじゃなかった…」


ドアを閉めた後、雲雀君が顔を真っ赤にして呟いたことを、僕は知らない。






Fin.
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