骸雲小説2

□無力な体
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その時、僕は。

本当に何もできなかったんだ。


無力な体



「雲雀君っ!!」


骸の珍しく大きな声に振り向けば、ぐんぐん迫って来る黒い車。


こういう緊迫した状況では反射的に動けない、みたいな事を聞いた事があったけど、まさにその通りで。


足に根が生えたように動けなくて、ただただ迫り来る車を眺めていた。



あ、僕死ぬかも。



その言葉だけが鮮やかにぼんやりした頭をよぎった。


その後立て続けに色んな事が起こったけど、僕が覚えているのは獣のように迫る黒い車と、近くで揺れた、藍色のさらさらした髪だけ。


…そして暗転。





僕は地面に叩き付けられた。







「痛い…」


どうやら体を強く打ったようだ。

体の節々が痛んで仕方がない。


でも。


「生きてる…?」


手をついて起き上がれば、簡単に起き上がれた。

大した怪我もない。



途端に周りのざわめきと悲鳴が一気に押し寄せた。

「誰か、救急車を呼べ!!」


そう叫んだのは聞き覚えのない声で。

僕は大丈夫、そう言おうと思って顔を上げた。








「う、そ…」






目の前には電柱に突っ込んで潰れた車。

そしてその近くに広がっていたのは。





愛しい彼から流出す、赤い赤い。






「うそだ…む、骸…」



よろめいて立ち上がると、地面に横たわる骸に手を伸ばした。

頬に手を当てれば温かくて、息もしていた。


でも、出血がひどい。


骸の腹と頭からは絶えずじわじわと血が流れ出してアスファルトの上に広がっていった。




「やだ、やだやだ、何、何なのこれ」


嘘でしょ、ねえ。

嫌だ、嫌だ。


僕は骸の胸に狂ったようにすがりついた。

さっきまで温かかった肌が、だんだん冷たくなってゆく。



さっきまで僕が袖を掴んでいた学ランが赤く染まっていく。



「骸、目を開けなよ…!」


心臓が苦しくて、大声を出したつもりがかすれた声しかでない。


ああ、僕は。


どれだけ骸に依存して生きているのか。

骸がいなくなった時の事なんか考えた事もなかった。


考えたくもなかった。


目の前でだんだん冷たくなる彼を呆然と見つめて、ただただ、佇んでいるだけ。



無力な、僕。


骸に庇われるくらい弱い弱い、無力なカラダ。











「雲雀君が、無事で…良かった…」


微かに目を開けて、優しく微笑んで囁いた骸の声だけが、ざわめきの中ではっきりと聞こえた。








Fin.
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