骸雲小説2
□金のなる木の育て方
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それから何日か経った日、雲雀君がソファーで昼寝をしていたので毛布を掛けようとそっとソファーに近付くと。
机の上には何やら細く書き込まれたメモ。
「何でしょう?」
僕はちょっと後ろめたさを感じながらも、誘惑には勝てずにメモを読んだ。
・三月末から八月末まで露地に出し、十分に水と肥料を与える(但し肥料は八月上旬で止めること!)
・九月上旬から十月末水を止め、半日風通しの良い所に置く(この頃、発芽する)
・十一月上旬から十日に一回水を与え、室内に置く
・花が咲いたら木を掘り返すと、金が実っているはず!
それはあの金のなる木の育て方で、雲雀君の手書きで書いてある文字にクスッと微笑んだのも束の間。
慌てて窓辺を見れば、植木鉢の木には大きな蕾が今にも咲きそうに頭を垂れていた。
多分、明日明後日あたりには綺麗な赤い花を咲かせるだろう。
そうしたら、雲雀君はあの木の下を掘り起こす。
そして何もない土を見てしまうのだ。
こんなに楽しみにしているのに、掘り返したら何もなかったらさぞかしガッカリするだろう。
それを考えたら、たまらなく悲しくなった。
雲雀君が悲しむ所は見たくない。
もしかしたら、と藁にもすがる気持ちで気付かれないように木の下を掘り起こす。
「やっぱり…」
木の下にはただの木の根が広がっているだけ。
どうにかしなければ。
必死で頭を巡らせたが、ただの金の塊なんてそうそう売っているわけでもないし、かと言って何もしないと雲雀君が悲しむ。
すやすやと安らかな寝息をたてる雲雀君の寝顔を眺めて悩む。
この純粋な雲雀君の思いは傷付けたくない、絶対に。
そうは言ってもどうしたら、と途方に暮れて何気なくさっきのメモを手に取ると。
さっきは気付かなかったが、下の端には小さく、「金ができたら骸とお揃いの金のリングを作ろう」と走り書きされていた。
「雲雀君…」
何て、可愛いんだろう。
隣に眠る雲雀君をそっと抱き締めた。
温かな体温とゆったりした寝息に愛しさが込み上げる。
「答えは簡単じゃないですか」
小さく呟いて、雲雀君のサラサラの黒髪を撫でた。
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