骸雲小説2

□夜の窓のむこう
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「また明日、雲雀君」


そういって彼はいつも名残惜しそうに僕の頬を撫でるんだ。




夜の窓のむこう




「危ないですから、早く帰りましょうね」

もっと一緒に居たくて、どんなにごねても骸は僕の手を引いて駅へと連れて行く。


「なんで」


そんなに僕と一緒に居るのが退屈かい。

そう睨んでやれば首を振って、恭弥、と言って頭をあやすように撫でられる。


「僕達はまだ中学生ですよ。夜遊びはダメです」


真面目なヤツ。

そういう変な所だけ、やけに真面目なんだよね。


「ホームの中まで送って行きますから、ね」


辺りはもう既に暗くなりかけている。

駅のホームに二人、手を繋いで堂々巡りの会話。


「まだ、ですかね」



まだ来なければいいんですが。


「まだだよ」



そんなに早く来たら困るじゃない。


そんなお互いの心の声が聞こえて来る。


冷たい骸の手をぎゅっと握れば、細い指がからかうようにトントン、と僕の手の甲を叩く。




「寂しいんでしょ」


「僕が、ですか?」


「一人で帰るのって、寂しいくない?」




骸は黙ったまま繋いでいる手を着ていたコートの大きなポケットの中に入れる。


「ねぇ、冬じゃないんだから暑いよ」


そう言って僕がぐいっとポケットから手を出させる。

でも決して手を離さないのが僕らの距離。




「電車、来ましたね」


「…うん」


ガタン、と鈍行の電車がホームに静かに滑り込んで来る。


「雲雀君」


「なに?」




「寂しい、ですよ」


骸はそう言って僕の頬を名残惜しそうにそっと撫でて、トン、と電車の中へ押し込んだ。


「左手がなんだかスースーするんです。だからいつもぎゅっと握ってポケットの中に入れるんです」


骸は右手を握ったり、開いたりしてから手をひらひらと振った。


「骸」




「また明日、雲雀君」


そっと囁くような、優しい声が耳に届いた途端にドアが閉まる。


ゆっくりと電車が動き始めると、骸の姿がだんだん遠くなる。


ひらひらと小さく手を振っていた骸は電車が走り出すと手を下ろしてじっと立ち止まっていた。



なんだかそれがすごく寂しげで。


胸が苦しくなった。




真っ暗な窓に反射する自分の顔を眺めて小さくため息をつく。

やっぱりどうしたって寂しくなるんだ。


暗い無人のホームに電車が止まるたびにふわりと入ってくる生暖かい風が僕の髪を揺らす。


骸の手をさっきまで握っていた右手を握ったり開いたりしてから、ぎゅっと握ってポケットに入れてみる。

そうすると手が風に触れたせいで、少し冷たくなった。




なんとなく、冷たい骸の手を握っているような気がして、また切なくなる。


「あんな寂しそうな顔しないでよね…」


ポツリと呟くと、なんだか目頭がじんわり熱くなった。


だから夜の電車は嫌い。




君に今すぐ、会いたくなるから。


あの冷たい指を温めたくなるから。


「また明日、骸」





本当は今すぐ、君に会いたいのに。




Fin.
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