逃水の宴

□サイト一周年企画
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[[奈落へ-風璃]]


「やあ、久し振り」
「…お前か」


奈落の前で今日も仁王立ち。何がしたいのか分らないけど、それちょっと怖いよ?
って言ったら、

「別に誰も来ないからな」

って悲しそうに言われた。耳と尻尾も垂れてた。
なんか…ごめん。


「最近、ご無沙汰だったしね。シエラも元気?」
「…ああ。時々会う」
「そう、良かったね」


ラルクと会うのは…どれだけ振りだろう。詩音と(バドとコロナと)暮らすようになってから、二人だけで会うとかは無かった気がする。


「…何の用だ」
「んー?いや、別にー」
「お前の事だから、こんな日は妹と出掛けるのかと思っていた」
「偶には、ねー」


傍らの、丁度良い石に腰かけて、ラルクを見上げる。
同時に視界に入る空は、ここもやっぱり場違いに青い。


「座ったら?」
「…いや、」
「もう慣れたとか?それとも何かの鍛錬?」
「………痺れただけだ」

「ツンってして良い?」
「したらコロス」
「…やだなぁ、マジな顔で睨まないでよ」


ほんとに怖いんだから。
そう笑っていたら、不意にラルクは笑った。
…何?僕、変な顔してた?


「お前は、変わったな」
「え?」


いきなりそんな風に言われたもんだから、思わず面喰う。


「…何が?」
「いや、何か色々…初めて会った頃とは随分変わったと思って」


思い起こされる、未だ暗い奈落での出会い。
一瞬、暗い思考に沈みかけたけど、すぐに僕は笑顔を浮かべた。


「ラルクのお陰だね」
「は?」
「ラルクとかシエラとか、皆のお陰だよ」

「…妹に言ってやれ。そう言う事は」
「いつも言ってるよー」


小さく息を吐いたのは、照れの所為?
視線を逸らすラルクが面白くて、僕は笑った。


「だからね、ラルク」


いつかと同じ、春の空の下で、想いを込めて。



「ありがと」



風璃END.
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