影歩き

□ひとの狭間
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彼は嗤っていた。
新月の様に静かに、鋭利なナイフの様に滑らかに。
彼は、嗤っていた。


ひとが死んだというのに。




狂ってしまった様な其れでは無い。
その深海の瞳は鈍い光を確かにたたえ、病的な程に白い顔には赤い唇が弧を画いている。

ぞくり、と。ダナエは背筋が冷たくなった。

「氷華、さん」

震える声を辛うじて発し、蚊の鳴くような其れで呼び掛ける。





彼は、静かに嗤っていた。
そして、遠くを見つめていた。



<マナの聖域>を。


  
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