逃水の宴

□08ハロウィン企画
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[[白妙の森]]



「とりっくおあとりーと!」


双子の声に、白い大きな竜がゆっくりと振り向きました。
竜は不思議そうに首をかしげます。


『今晩和、魔法使い。今宵は何のお祭りでしょう?』
「今日はハロウィンですよ、ヴァディス様」


傍らの獣人の戦士が、そっと言いました。
竜は人間たちのお祭りを知らないのです。獣人の戦士に話を聞いて、そして慌てました。


『まあ、そうなのですか。どうしましょう、お菓子を用意していないわ』
「それじゃあ」
「悪戯だな!」


双子はお互いに顔を見合せて、にやりと笑いました。
そのとっても楽しそうな笑顔に、竜はなんだか嫌な予感がします。


『え、あの』
「だめーっ!」
「悪戯するんだもーん!」


双子は竜にとび付きました。その柔らかな白い毛に手を埋めて、ごそごそとうごめかします。
その途端、竜はその巨体をふるわせ始めます。そして我慢ならなくなった様子で、とうとう声を上げました。


『ふ…ふふっ、これ、おやめなさ……ふふふっ』


双子は竜の全身をくすぐり回ります。
竜は身をよじって振り払おうとしますが敵いません。


「ヴァディス様…」


はじめはその様子を止めようとしていた戦士も、やがてふっと息を吐きました。
それから彼女もまたくすぐったくはないけれど笑い出します。

くすぐっている方の双子も、いつの間にか笑っていました。
くすぐったくないのに、と双子の弟は不思議に首をかしげます。けれどすぐにまた笑みが零れてくるのです。


「姉さん……何をやっているんだ」
「ああ、ラルクか」


微かな葉擦れの音と共に、白き獣人の隣に、暗色の毛並みの獣人の戦士が現れました。
彼は竜たちの様子を呆れたように見ていましたが、じきに隣の彼の姉もまた笑っているのに気付きました。


「今日はハロウィンだ」


姉の言葉に、戦士は暫くの後に理解しました。


「懐かしいな」
「ああ、そうだな」


白き獣人は、いつかを懐かしむように目を細めます。それは遠い遠い過去のこと。
二人がまだとっても小さかったころ。
ともに、あたたかな世界で駆け回っていた時のこと―――。


「ヴァディス様は、お知りになられなかったのでな」
「悪戯、というわけか」
「そうだ」


くくっと喉の奥で、戦士も笑いました。
けれどすぐに、隣の姉の言葉に凍り付きます。


「次の獲物はお前だぞ」


双子の師匠達なら、きっとそんな粗相はしていなかっただろうに。




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