逃水の宴

□08ハロウィン企画
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[[断崖の寺院]]



「とりっくおあとりーと!」


びゅうん、ときつい風で飛んで行きそうになる尖がり帽子を押さえながら、双子は断崖の寺院へゆきました。
大きな扉を二人掛かりで開けて、その奥の奥の部屋へ、この寺院の修道女に導かれて入ってゆきます。
入るなり、そこに居た人影に、双子は呼び掛けました。


「あら、可愛い魔法使いさん、いらっしゃい」


この寺院の司祭のおねえさんが、笑って手を振りました。
それから傍らの獣人のおねえさんに何か言って、双子を招き寄せます。


「パンプキンパイを焼いたのよ。どうぞ、召し上がれ」
「これ、マチルダのおねえちゃんが?」
「そうよ。初めて作ったんだけど…どうかしら」


もう食べ終わった双子の弟が、口の周りに食べかすを付けながらにっこりと笑いました。
ぽろぽろとかすが零れ落ちます。


「すっげえうまいぜ!」
「そう?よかったわ」
「もう、バドったら」


双子の姉が、母親の様に弟を咎めながらかすを掃ってやります。
くすくすと司祭が笑います。
不思議そうに見詰める双子に、司祭はどこか遠くを見て話しました。


「わたしも、あなたたちみたいに思いっきり遊べたら良かったのに」


司祭は、外の世界を知りません。限られた鳥籠の中で一生を終える鳥の様です。
不意に、双子は悲しくなりました。
その顔が歪められたのを察して、司祭は慌てて笑顔を作りました。


「ごめんなさいね。気にしないで」


双子は顔を見合わせました。それから頷き合って、司祭に歩み寄ります。


「マチルダのおねえちゃん、お菓子貰ったけど、いたずらしてあげるね」


それが精一杯の双子のやさしさでした。
驚く司祭の両側から歩み寄って、双子は同時に触れました。
司祭の両頬に、やさしい口付けを。

驚いていた司祭は、すぐにくすぐったそうに笑いました。
それから、ありがとうと言いました。ほんとうに嬉しそうに、そう言いました。
そうしたら、双子も嬉しくなったのです。司祭がほんとうに楽しそうに笑うので、双子も笑いました。


「ほんとうのお菓子は、こっちなのよ」


戻ってきた獣人の僧兵から受け取った二つの袋を、司祭は双子にそれぞれ渡しました。


「中身はクッキーよ。こっちはダナエが作ったのだけど」


僧兵と笑い合って、司祭は言いました。


「みんなで、食べてね」
「うん!」


双子の脳裏に浮かぶのは、もちろん自分たちの誇らしい師匠です。




☆ 猫型クッキー を ゲット した !
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