逃水の宴

□08残暑見舞い
4ページ/7ページ


[[町へ-ラズベリル&ロワ=セラフィ]]


ロワ=セラフィに見たこともない衣服を着せてもらって髪を結ってもらって、ラズベリルは嬉しそうにはしゃぎ回っていた。
そんなラズベリルが転ばないかハラハラと、そんな彼女が嬉しそうなのに笑みをこぼし、ロワ=セラフィは己も同じような衣装に身を包み、そしてキャンバスと画材といつもの用意を準備する。


「ねぇセラ、これ何?ひらひらする」
「浴衣っていうのよ。涼しいでしょう?」
「うん、セラの浴衣、綺麗ね」
「ラズのも可愛いわよ」


浴衣の赤い袖をなびかせ、ラズベリルはくるりと一度回った。
そして荷物を抱え、出発しようとするロワ=セラフィに慌てて追いつき、その手伝いをしようとする。


「今日はどこ行くの?」
「ロアの町に、行こうと思うの」


夕暮れの畔道は西日が熱かったが、東の空は宵闇に染まりつつある。
涼やかな風が、ラズベリルのいつもの赤いリボンを攫う。
ロワ=セラフィの銀の髪は一つに纏められ、結わえた緑の紐が揺れた。


「ロアの町、何かある?」
「今日は、花火が上がるのよ」


ロワ=セラフィがそう言った先に、ひゅう、と音がした。
驚いたラズベリルがそちらを向くと、一瞬後に赤い花が咲いた。


「わぁっ!?」
「あれが、花火っていうのよ」


びっくりしてロワ=セラフィの緑の浴衣のすそを掴むラズベリルの頭を撫でて、ロワ=セラフィは笑う。

ロアの町に着く頃は世界は夜で、先刻の光の花が夜空によく映えた。


「すごいっ……すごいすごいねっ、セラ!」
「そうね、綺麗ね」
「うん、きれいっ!」


花火の良く見える河原に腰掛けて、ラズベリルは花火に見入る。
そしてロワ=セラフィは筆を取って。


「セラ、…花火、描かないの?」


赤い浴衣に身を包んだウサギを、白いキャンバスに走らせるのだ。




☆花火以上に綺麗なもの。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ