逃水の宴

□08残暑見舞い
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[[雪原へ-白雪&グラシエール]]



「あー、やっぱりここは涼しいね。っていうか寒いね」


雪に顔を埋めながら言う白雪に、グラシエールはクスリと笑う。
それから暗い夜空を見上げる。
そこに浮かぶのは煌々と光る満月。


「ねぇ、白雪」


煌く星を見つめながら、グラシエールは隣の白雪に話し掛ける。
今日は快晴。黒のカーテンに覆われた夜空に舞う白いものは一つもない。


「今日はね、隣のロアの町で、花火が上がるんですって」
「…見に行きたかった?」


ようやく身を起し、雪を払う白雪に、グラシエールは微笑んで。


「いいえ」


冷たい風が、頬を撫でる。
白雪の菫色の瞳がグラシエールの蒼いそれと交錯して。
白雪はその雪女の瞳に吸い込まれる感覚を受けて。グラシエールは彼のやわらかな眼差しに何かが溶けてゆくような気がして。


「ここからでも、花火は見えるわ。
 白雪とふたりで、雪原の上に咲く花を見てみたいの」


そう言ったところで、彼女の顔が半分、光に照らされた。
それから遅れて、ドン、と地を震わせるような音。
そちらへ視線を遣った二人の前に、またひとつ。

  ドン

パラパラ、爆ぜる音。
赤と緑と黄と、それから沢山の色。
夜空のカンバスに咲いた、光の花。

嬉しそうに顔を綻ばせるグラシエールの横顔に、白雪は和やかに笑んだ。


「今度また、小さいので良ければ持ってくるよ」


二人で、やろう?
その言葉にグラシエールの心は、夏の日差しに、溶けた。




☆涼しいのは、気温の所為。暑いのは、何の所為?
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