逃水の宴

□08残暑見舞い
2ページ/7ページ


[[海へ-サフォー&アクア]]


少し手を浸した海の水は温いようだったが、己の騎士には無問題だったようだ。
楽しそうに掬い上げて散らして、太陽光に煌く飛沫の中で笑っている。
鈴音の声を聞きながら、サフォーは日陰にごろりと寝転がった。
最近は都市の方で仕事詰めだった。その上この暑さ、体力の無い姫長・サフォーはもう精魂尽き果てていた。

丁度海からの水面を撫でるような風が、サフォーの銀糸を揺らす。
目を閉じたサフォーの暗闇の世界にあるのは、音だけだった。
波の走る音と、風が抜ける音と、遠くに鴎の声と、己が騎士の笑い声。
そのどれもが心地よく、まるでそこは箱庭世界。


うとうとと夢現を彷徨い、まどろんでいたところに。

  バッシャァ!

「っうわ…っ!?」


突然の衝撃に、サフォーは驚いて飛び起きた。
何が起こったのか分からず、何故か水を垂らす己の髪を邪魔っけにかき上げ、そして笑い声を聞いた。
視線を遣ると、とても楽しそうなアクアが、笑みを浮かべてそこに。


「マリーナ、お前…」
「だってサフォー様ったら、ひとりで寝ちゃうんですもの」


悪びれもせずそう言って、アクアは足元の水を掬って此方に散らす。
サフォーは慌てて退いて、そしてけれどすぐに自分が水浸しになっている原因に思い当たる。


「っお前か!」
「あははっ、ほら、サフォー様!」


バシャバシャとサフォーが何か言う前に、アクアは水を引っ掛けてくる。
それにサフォーは、遂に自分も海へ入った。


「マリーナ!」
「わわっ、冷たいですっ!」
「お前からやったんだろう!」


珍しいサフォーの笑い声と、アクアの鈴音。
港町ポルポタの青空の下、キラキラと光る水飛沫と、風音と。


「ね、涼しいでしょう?」
「涼しいというか………っくしょ!」


そんな夏の、日。




☆暑い日も、共に在れば。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ