逃水の宴

□しあわせの猫
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「ひどいなぁ。俺、君の席の左斜め後ろに居るじゃないか」
「……ひだりななめうしろ?」


なんだその微妙な位置は。そんなもの、知る筈もない。
授業は専ら机に突っ伏して寝ている。プリントなんてものも回ってくるだろうが、寝ている俺は普通にスルーされている。


「せめてクラスメイトの顔くらいは分かってよ」
「……くらすめいと。……ああ、同じクラスだったのか」


しかし俺には奴の顔は見覚えがない。これには流石に申し訳なさも少しは湧いた。


「…で。そのクラスメイトが、何しに来た?」
「だからぁ、さっき言ったでしょ?君を連れ戻しに来たって」


左斜め後ろの席の奴が、わざわざ来たのか。
しかしその当の奴が、さっきから片手で村雨を撫ぜたりしているのは如何に。


「で、……戻るんだろう?」


俺の方が立ち上がったというのに、奴はまだ座り込んだまま。
すると此方を見上げて、また笑って。


「村雨と遊んでからー」


結局、俺もそのままひとりで戻るわけにもいかず。

気が付いたら空は夕焼け色で、チャイムとざわめきが大きく聞こえた。


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