逃水の宴

□世界を覆い尽くして、どうかそのまま世界を消して
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「……マチルダ、中、入りましょう」

だからダナエは、マチルダの手を引いて鳥籠に戻すことしか出来ない。その鍵を残酷にも自ら掛けるのだ。

「…修道女たちに、怒られるかしら」

無邪気に笑うマチルダが愛しくて悲しくて。
ダナエは、握った手に力を入れた。
自分の意思を保つために。自己を確立させるために。
それを知ってか知らずか、マチルダは嬉しそうに手を握り返してくる。

「………」

冷たい雪と、右手のぬくもり。
それが極端に違う温度差なので、泣きたくなるほど世界は厳しいのだと思い知らされる。
けれどダナエはそんな世界が好きで、マチルダはそれを知らない。
だからダナエは、そんな世界が嫌いだ。



抵抗もせずに手をひかれるマチルダに、怒りを覚えたのは実のところだ。
彼女の無知に、泣いた。哀れんだ。怒った。
どうして知らないのだろう。どうして彼女は。
勇気というものを、知らないのだろうと。



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