逃水の宴

□世界を覆い尽くして、どうかそのまま世界を消して
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吐く息が白くなってきた。

「マチルダ、中へ入りましょう」
「大丈夫よ」

頑ななマチルダに、ダナエはけれど出来ることならそうさせてやりたいと思うのだ。
何も知らない綺麗な鳥籠に閉じ込められた彼女を見るのは、ダナエも嫌いなのだ。
空はこんなにも高いのに、風はこんなにも痛いのに、マチルダはそれを識りながら知らない。
それが憐れで哀しくて、ダナエはその手を引いて連れ去りたいと思ってしまう。それが出来ないことを誰よりも知りながら。

「……マチルダ」
「だいじょう、…ぶ、っ」

言った傍から小さなくしゃみをしたマチルダに、ダナエは早足で駆け寄る。

「ほら、言ったじゃない」
「でも…」

手にした防寒具を着せてやりながら、ダナエは泣きたいのをこらえた。
ごめんなさい、マチルダ。私にはどうすることも出来ないの。
 
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