逃水の宴

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ゆすゆす。
「一欠ー」

今度は体をゆすられる。
風璃には、一欠の額に浮かんだ青筋が見えないのだろうか。

ゆすゆす。
「せっかくの天気なんだしさぁ」

ゆすゆす。
「昼寝なんて、もったいないよー」

ゆすゆす。
「お弁当は僕が作るからさー」

「…………それは止めろ」

ようやく。折れたのは一欠の方で、不機嫌なままの表情で体を起こした。

「あ、起きた」

起こしたのはお前だ。言いたいのを飲み込んで、一欠は帽子を被る。

「ねぇ、お弁当。おにぎりかサンドか、どっちが良い?」
「お前は作るな」

今一度言って、一欠は一人立ち上がる。
慌てて風璃も立って、先を歩く一欠を追いかける。

「ねぇ、どこが良い?
 キルマ湖?白の森?ゴミ山?」
「…どこでも良い」

そう言いながら、一欠は先を歩く。
行先など決まっていない。ただ爪先を追って、歩いているだけだ。
 
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