逃水の宴
□ライン
3ページ/7ページ
ゆすゆす。
「一欠ー」
今度は体をゆすられる。
風璃には、一欠の額に浮かんだ青筋が見えないのだろうか。
ゆすゆす。
「せっかくの天気なんだしさぁ」
ゆすゆす。
「昼寝なんて、もったいないよー」
ゆすゆす。
「お弁当は僕が作るからさー」
「…………それは止めろ」
ようやく。折れたのは一欠の方で、不機嫌なままの表情で体を起こした。
「あ、起きた」
起こしたのはお前だ。言いたいのを飲み込んで、一欠は帽子を被る。
「ねぇ、お弁当。おにぎりかサンドか、どっちが良い?」
「お前は作るな」
今一度言って、一欠は一人立ち上がる。
慌てて風璃も立って、先を歩く一欠を追いかける。
「ねぇ、どこが良い?
キルマ湖?白の森?ゴミ山?」
「…どこでも良い」
そう言いながら、一欠は先を歩く。
行先など決まっていない。ただ爪先を追って、歩いているだけだ。