逃水の宴

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「一欠、ひか」

何度追い払ってもめげない。
一欠はその金色の頭に、茶色い耳を見た。

「ねぇ、いこーよ。一緒にどっかいこーよ」

笑顔を絶やさず、ふりふりと尻尾を振って。
ああ、これは完全に犬だ。一欠はそう判断して、無視を決め込む。
ごろりと寝がえりをうって、背を向ける。
けれど風璃は追いかけて、一欠が体を向けた方にやって来る。

ごろり。
「ねえ」

ごろり。
「一欠ったら」

ごろり。
「どっかいこーよぉ」

ごろり。
「ねえったらぁ」

ここまでして引かない風璃も風璃だが、ここまで嫌がる一欠も一欠だ。
大抵の人間は(たとえそれが詩音であっても)、ここまでされると嫌々ながらも折れる。

 
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