逃水の宴
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不意に、ぴたりと一欠が足を止めた。その背中に思わずぶつかってくるかと思いきや、その衝撃は来ない。
一歩後ろで、風璃は止まっていた。
「………」
視線が合うと、にこりと微笑まれる。それはなんだか不愉快。
「―――…」
わらうな、と言いかけて一欠は口を閉じる。その言葉を口にしてしまえば、負けな気がして。
けれど。
「………」
「あ」
「あ?」
「もしかして僕、鬱陶しかった?」
「は?」
「それだったら、…ごめんね」
その時の彼の顔を見なかったら。悲しげに歪められた表情を見なかったら。
どれだけ良かったかと、一欠は思った。
「じゃ、いこっか!」
何所へとも言わず、風璃は一欠の手を取って駆けだした。
引きずられるように一欠も走る。
先刻の表情を。
その手の温もりを。
知ってしまったから、一欠は無碍に離せなかった。
今日はなんて、良い天気。