鏡映し

□止まるところを知らない、春の痛み
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そこでセンカは自嘲にも見える笑みを浮かべる。
何処か遠い世界のことを言っている。けれど其れは現実のものだった。

「ダナエか、エスカデか…どちらかを選ぶなんて俺には出来なかった。結果的にはエスカデに付いてしまった。そして随分と早い段階で俺はこの手を血に染めた。
それだけでは終わらなかった。マチルダとアーウィン…厚かましいけど、幸せになって欲しいとは思ってた。けれどやっぱり俺の所為だろうな、死を以てしか、二人は赦されなかった」

どうして…センカがそんなことを言い出したかなんてわからない。
けれど、確かにセンカの記憶に刻まれている時間。

「本当は俺はここにいてはいけないんだ。
罪を、一生かけても償いきれない罪を背負ってるんだ。だから、俺にはこんな資格なんて無いんだ。瑠璃にこんな気持ちを抱く資格は無いんだ」

大声を上げて泣いてしまえばいい。
そうすれば楽になるのに。
そうすれば俺だって何か言えるのに。
馬鹿じゃないのか。どうしてそこまで自分を責める?

「俺がこんな気持ちを抱いた所為で、瑠璃を苦しめたりもした。やっぱり俺は居てはいけないんだ。赦されない存在なんだ」

そのまま目の前から消えてしまいそうなその様子に、俺は慌ててセンカにしがみついた。

「瑠璃?」
「どこにも…行くなよ?」

涙が、出そうだった。

「お前に居なくなられると、俺が困る」
「どうして?」
「お前の所為でっ…俺はお前が好きなんだよ!」

顔をセンカの胸に埋めたまま、叫ぶ。恥ずかしすぎて顔なんて見られやしない。

「だから…責任持って、ここに居ろ」

不意を突かれたように押し黙るセンカの様子が思い浮かべられる。
何にかわからないが、勝った、というような気分になって、唇の端を上げた。当然、センカには見えないだろうが。

「こんなにも俺の手は汚れているのに?」
「まだ言うか」

そんなことはとても馬鹿馬鹿しいこと。どうでも良いんだ。関係ない。
 
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