影歩き
□Platonic
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しゃきん。
時折首筋に触れる手の温もりを、擽ったく感じながら。
しゃきん。
陽の光に当たっていた所為で、その髪はあたたかかった。
日向のにおいが、した。
しゃきん。
ペットが退屈さに欠伸を漏らしたところで、その音は止んだ。
「………」
そこで、コロナは気付いた。
「あああああすみません!勝手に…!」
ずざざっ、と勢いよく後退して、真っ赤に染まった顔の口許を押さえ。
とんでもないことをしてしまった、とコロナは音速で謝る。
振り向いた一欠は怪訝顔だ。
「…?」
此方を向いたまま何も言わない一欠に、コロナはそっと垂れていた頭を上げる。
「…氷夏、さん?」
肩に落ちた髪もそのままに、一欠はその硝子色の目を眠たげに細め、云った。
「こっちも、頼む」
晴れてゆく雨空のように、コロナは微笑んだ。
「はい!」
しゃきん。
触れた前髪は、手は、矢張り。
((………あたたかい))
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