逃水の宴

□07クリスマス企画
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「だから、今日はクリスマスだって」
「…まさかお前、まだサンタクロースを信じてるなんて…」
「サンタは、居るよ」

そこまで餓鬼だったか、とエスカデは深い息を吐いた。

「あのなお前、」
「サンタは僕で、詩音なんだ」
「は?」

満足げな風璃の笑みに、エスカデは疑問符を飛ばす。彼の思考に付いていける者など居るのだろうかと思うほど、突拍子も無い事を時々彼は言う。

「何だそれは」
「内緒」

子供のように人差し指を口元に当てて。けれどそれは別段も可愛くないとエスカデは思った。

「あの花、知ってる?」
「俺に花の名を訊くな」
「待雪草―――スノードロップ、だよ」

何となく、分かった。先刻の彼の言葉の意味が。
するとこの花の贈り主は、彼の溺愛する妹からの。
お前も何か送ったのか、とは訊かなかった。それは野暮すぎるだろう。それにエスカデには興味が無かったし、それを訊く資格も無い。

「外はどんなに寒くても、雪がどんなに世界を覆っても、いつかは溶けるんだよ。春は来るんだよ」

あの子がそう思える様になって。良かったと、風璃は呟いた。

「あのな」

口出しするものではないと、エスカデは分かっていたがそれでも、思わず言ってしまった。ここで引くわけにも行かず、一息に言ってしまうことにする。

「あいつは、お前が思うほど弱くは無いんだぞ」

分かってるよ、と言った彼に、分かってないと言い返したかった。
その、少し哀しげな横顔を見なければ。

「分かってるよ。詩音は、僕が思うほど弱くは無いけど、皆が思うほど強くも無いんだ」

結局。誰も彼女の本質を知ることは出来ないのだろうかと。風璃も、エスカデも、それが哀しかった。


「ねえ、君を想う人はこんなにも居るよ」

そう、風璃は小さな花に呼び掛けた。
"希望"は、其処にあるよ。春を知るスノードロップ。


メリークリスマス、君に幸あれ。




風璃ED.
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