影繋ぎ
□訪れた先
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【訪れた先】
はるの風が、ふわり
やさしい風が、ふわり
はるを はこぶよ
ことばを はこぶよ
不意に一欠の耳に飛び込んだ、春の歌。
「氷華さん」
呼ばれ、振り向くと、そこには用事を済ませたらしいニキータが財布を懐に仕舞い込みながら此方へ向かって来るところだった。
一欠は彼には何も言わずに、じっと遠くを見ていた。その視線の先には、村の子供だろうか数人の幼子たち。
誰もが笑みを浮かべ、風の様に駆けてゆく。
「何見てるにゃ?」
「別に」
そう言っているのに、ニキータはその視線を追いかけ。
ああ、と相槌を打ってから、少し口の端を上げた。
「懐かしいにゃ。オイラにもあんな頃があったにゃ」
普段から糸目のそれがますます細くなって、ニキータは笑った。
一欠は何も言わずに、ニキータの横をすり抜け、歩いて行く。
「氷華さん」
追いかけてくる、ニキータの声。
けれども一欠は無視した。ただひたすらに、歩いた。
ひたすら歩いて、歩いて。