影歩き

□悦びの歌
1ページ/6ページ

  

お前のお陰だと言ったレディパールに、一欠は何も反応を返さなかった。
ただ人気のないテラスで、ぼんやりと空を眺めている。
遠くで聞こえるざわめきは、復活したばかりの珠魅たちだ。宝石泥棒も、よくも千人も見付けたものだと一欠は見当違いに感心した。
そして同時に恨んだ。
どうやら自分がその千人の珠魅を復活させたらしい。それは良いが、お陰で崇め立てられ、一欠の一挙一動に注目され、まして都市から出ることなんて到底無理だった。

「今夜は宴会だそうだ」

レディパールは言って、苦笑した。当然一欠も出席決定だろう。
レディパールは只の連絡役だ。

「酒は嫌いだ」

そこで、一欠が動いた。
首が痛くなるのではないかと思う程の時間空を向いていた顔を下ろして、今度は足元の村雨を見下ろした。

「氷華、」

状況が理解できないレディパールを置き去りに、一欠は村雨を肩に担ぎ、ひょいとテラスの手摺を飛び越えた。

「ちょっ…」

ここは二階だ。青ざめたレディパールは直ぐに手摺に取り掛かり下を覗いたが、悲鳴は聞こえなかった。
赤い頭巾だけが、見えた。

「…全く」

仕方のないやつだ、とレディパールは彼が帰った旨をルーベンスに伝えるべく、踵を返した。









次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ