逃水の宴

□星廻り、愛歌う
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月夜の町の星空は、今日ばかりは昏くは無かった。白く輝く星の川が、空さえも明るく染めて。まるで明けるはずのない朝が来たよう。
リュミヌーは部屋中に灯していたランプの火を全て消した。そうしないと、勿体無いと思ったのだ。
窓から射し込む星明かりが、真っ暗になった室内を淡く照らしていた。


「今日はお仕事もお休みね。どうせ、こんな日にランプを買いに来るお客様も居ないでしょう」


リュミヌーは家を飛び出して、町が一望出来るテラスへ向かった。そこは嘗て、大切な人と夢を語らった場所。
あの日は月が眩しかった、とリュミヌーは思い出していた。今日は星が目映く、あの日のように町に光を降り注いでいた。
ふと眼下を望むと、町中が灯りを消していた。


「みんなやっぱり、考えることは同じなのね」


明けない夜の町の住人は、星明かりの祭りに静かに参加していた。
再び空を見上げたリュミヌーは、ふと歌を歌いたくなった。


「……歌っちゃおうかしら」


一番聞かせたいひとはここには居ないけれど。ここから何処までも続く空に向かって歌えば、彼の元へ届くだろうか。
そんな風に思えば、試してみたくなった。リュミヌーは少しワクワクしながら口を開いた。一瞬あとに、夜の静寂を壊さぬように、星の川を流れていくように、澄んだ歌声が伸びやかに響いた。


 
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