逃水の宴

□しあわせの猫
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「可愛いね」
「!」


いきなり背後から話し掛けられた。びくりと肩を竦ませて振り向くと、そこには一人の男が。
そいつは、何も答えない俺には構わずに、その隣にしゃがみ込む。
そして手を伸ばし、その柔らかなからだに触れた。


「この子、君が飼ってるの?飼ってるって言うか、ここで餌あげたり?」


きゅう、とソレが鳴いた。
ソレ、即ち先刻まで俺が構っていた動物。青い毛の仔猫だ。


「名前とかあるの?」
「……村雨」


親とはぐれたのか、ある日か細い鳴き声を聞いて出会った。
いつもの様に誰も居ない裏庭で昼休みを過ごして居た時だった。
小動物の扱いに慣れているわけではなかったが、嫌いでは無い。寧ろそこらの人間よりは好きだ。

はじめは少し警戒していた様子も見せたが、すぐに馴れた。
手づから餌を食うし、体の全体重を掛けて寄りかかり眠る。
勝手に付けた名を呼べばどこか嬉しそうに鳴くし、何処かへ行こうとすれば後を付いてこようとする。
流石に教室に連れていくわけにもいかず、そのままサボることも多々あるが。


「そっか、村雨か。良い名前だねー」

 
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