逃水の宴

□世界を覆い尽くして、どうかそのまま世界を消して
1ページ/4ページ

 
窓の外に、チラチラと白いものが見えた。
それを視界の端にとらえた瞬間、思わず走り出していた。
背後で自分を呼ぶ鋭い声が聞こえたが、聞こえなかったふりをして外へ飛び出す。



「………マチルダ」

さくり、足音とともに聞きなれた声が自分を呼んだ。
その呼び声に振り返った顔は、満面の笑みを浮かべていた。

「ダナエ!ほら、雪よ!」

普段の彼女らしかぬはしゃぎように、ダナエは怒りを通り越して苦笑する。
寒くなったら降る白いもの。それは一年に一度確かにやってくる冬の使者。今までの人生でも何度も見ただろうに、彼女は毎年こうやって初雪の日に外へ飛び出したい衝動を抑えきれない。

「マチルダ。風邪、ひくわよ」
「大丈夫よ。それよりダナエ、雪つもるかしら?」

ひらりひらり限りなく舞い落ちてくる白い紙のようなそれは、地に着いた瞬間跡形もなく溶けてゆく。
受け取れやしないのに手を器のようにして、それをいつまでも見詰めるマチルダに、ダナエは容易に近づけない。

「さあ?」
「つもったら、すごく綺麗なのよ。まっしろなのよ」
「ええ」

幼子のように頬を真っ赤にして興奮した様子で、マチルダはダナエも知っていることを知っていながら話す。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ