逃水の宴

□右斜め前に、あなたの背
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手を、伸ばす。
その先の手に触れそうになって、慌てて戻す。
でも、伸ばす。
やっぱり離れる。
もう一度。



「……何がしたい」

もう一度、と思って何度目かに手を伸ばしたところで、先に振り向かれた。
いきなりだったから、わたしはびっくりして思わず言葉につまる。

「え、えっとね、その、…て!」
「て?」
「手が、ね、その」

なんで、なんでこういうときに言いたい言葉が言えないんだろう。
そしてうまく誤魔化す術もわたしは知らない。

「………て、つないでもいい?」

そっと、上目で訊いた。
でも、すぐに怖くなって、背を向ける。

「ごっ、ごめんなさいっ。なんでも、ないの」

はずかしくてはずかしくて、わたしは駈け出した。
逃げたい。なんて大変なこと言っちゃったんだろう。
追いかけてこないで。呼びとめないで。
条件反射で立ち竦んじゃうから。
 
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