夢巡り

□手を伸ばして届いたもの
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別に自分がどうなろうと、どうでも良かったんだ。ただ、私は彼女を護りたかっただけ。彼女を救いたかった。そのためには何だってやる。例え自分が無くなろうとも。


「お前も同じようなものだな」


奈落と呼ばれる死者の都市。大して地上と変わらない様子で、そこに意志有る者は住んでいる。
私が自らその命を絶ってしまって数刻後、その奈落の入口を彷徨っていると、真っ赤な毛並みの美しい、見た目からすると獣人であろう男がそう声を掛けてきた。


「同じ、とは?」
「同じだろう?たった一人の為に自分の命をも懸けて、そしてどちらも救えなかった」


男は嘲笑うように鼻を鳴らしてそう言った。
しかし私は眉根を寄せ、それから目を逸らす。


「違う。まだあの方は生きている。私はあの方を救う為に死んだ。だからまだあの方は生きている」


或いはそれは、自分自身にそう思いこませる為の呪(しゅ)だったのかもしれない。私はそう思い込もうとしている。そうなのかもしれない。
男は大して面白くもなさそうに息を吐いた。


「そうか。だがそんなことはどうでもいい。お前は死んだのだからな」


それはわかっている。だから此処がいつか聞いた、死者の都市だと言うことも解っている。
視界に入るのは沢山の魂の光。それだけを見ると寧ろ幻想的な世界のようにも見える。実はそうなのかもしれない。天国というものはそうなのかもしれない。
ただ、そう漠然と思った。

 
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