夢巡り
□世界の真中にある大きな樹で
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昼過ぎに降り出した雪はまだ降っていた、
静かに、全ての音を染みこませて降っている。真白な雪が。
「退屈?」
返事は声ではなかった。ただ少しだけ首を横に振って、否定の意を表す。
それならいいけど、と読みかけの本に栞を挟んで閉じる。
傍らにあったポットから、甘い香りの紅茶を注ぎ足した。いる?と訊けば遠慮気味に差し出される、カップ。白い陶器のそれに、薄い茶の液体が零れてゆく。
ありがとうと、今度は言葉で返された。けれどその視線は、雪舞う外の景色へと。
「雪を見るのが好きって言った人がいるの」
それはいつか彼が読んであげた物語で、彼女が彼ではないひとに読み聞かせた物語。
そして、それは御伽噺ではなく。
「詩音は、雪が嫌い?」
今度はしっかりとした頷きが返ってくる。
どうして。
「雪は全てを隠してしまうから。隠してはいけないも
のまで、隠してしまうから」
「隠してはいけないもの?」
「…………」
答えは無かった。詩音はぼんやりと、雪の落ちる先を見つめている。
風璃は子供の拗ねたように口を尖らせ、不満げに、外を見つめる妹を見た。
すぐに、空になったポットを持って立ち上がる。
「お湯、沸かしてくるよ」
返事を待たずに、階下へ消えて行く。少し軋んだ音を聴きながら、詩音は雪の軌跡を見ていた。
「隠してはいけないもの。それは、……」
詩を読み上げるように、口先だけを動かす。
「――――」
知ってはいけない言葉。
片隅に置かれたサボテンだけがそれを聞いていた。
冬の、とある一日のこと。
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