夢巡り

□人形の踊り
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「どうしてニンゲンは自分勝手なの?
 まだ私は動ける。まだ私は戦えるのに!」


人形は憤慨して地を強く叩いた。
対峙する人間はただそれを哀しそうに見ている。


「……同情なんて要らないわ」


纏う炎が一際強く燃えさかる。


「私はどうして捨てられたの?
 まだ私は動ける。まだ私は戦えるのに」


人形に埋め込まれた紅い瞳が揺れる。
人間は人形に代わって一筋の涙を流した。


「同情なんていらないわ」
「………可哀想なあなた」


か細い声が人間の唇から紡がれた。
その翠玉の瞳はめいっぱい人形を映している。


「もう戦争が終わったことにも気付かず
 あなたは捨てられたわけではないこともわからず
 その身が自由になったことにも感じられず」
「え……」
「ただ平和な世の中
 あなたの主は死んだ
 あなたは戦う必要はない」


人形は項垂(うなだ)れたように視線を逸らした。


「あなたはもう自由の身
 戦うことを強要されない
 ただ自由に、生きて良い」


人間は人形をその腕に抱いた。
人形はただその石を紅く濡らしている。


「あなたも、あなたの仲間も」


それは封印を解くことば。
人形から零れ落ちたひとしずくの水は大地をそっと濡らした。
あちこちから嗚咽が聞こえる。今まで戦いの時代に封印されていた人形たちの泣き声。


「いってらっしゃい」


自由の地へ旅立つそのこころに。




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