逃水の宴

□子守唄
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真っ赤なジャムを塗りたくった、最早パンよりもそっちがメインじゃないの?と訊きたくなる様な甘い甘いそれを頬張る彼の顔は、至福そのもの。
センカは、そんな風璃の姿を、向い側で頬杖ついて眺めていた。


「風璃」
「ん?…むぐ、」


何か言いかけた風璃だったが、パンのもそもそが邪魔をして上手く動かなかった。
そんな彼に苦笑して、センカは不意に手を伸ばした。
頬を掠めた冷たい指先に、風璃は肩を竦める。


「ついてる、よ」


指先に付いた赤いそれを布巾で拭うセンカを、風璃が物言いたげな視線で見る。
何?とセンカが問えば、また同じ口内の状況で答えようとしたので、飲みこんでからでいいよとセンカは待った。


「……センカって、面倒見良いよね」


その言葉に、センカは目をぱちくりとさせ。
苦笑を浮かべるしか無かった。


「僕だって一応"兄"なんだけどなぁ」


続けて言われた言葉に、寡黙な少女を思い出す。
そう言えばそうだった。でも、似て無い二人だな、と。


「俺は瑠璃の"彼氏"だからね」
「それって関係ある?」
「多分」


笑って、センカは白のマグカップを手に取った。中の液体は柔らかな白だ。
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