dreams…

□堕ちた神へ絶望を説く1
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どくりどくりと心臓が忙しなく鼓動を高め、流れてゆく血液が沸騰するような感覚に眼が眩む。
大丈夫、と根拠なんてない言葉を無理に言い聞かせると、震える脚に力を込めた。

くらりと視界が反転しかけていたのを止めたのは、ずきりと酷く痛い視線を浴びせていた彼。
肩に手を回され、やっと支えられた身体。その男の伸ばす腕があと数秒遅ければ地面に倒れこんでいた。

膝が、笑う。




「何や、そないな眼で。」

彼の腕は優しく私の身体を安定させてはくれるものの、その声色にびくりと過剰に反応する。低く、暗に咎め立てられている気がする。(きっと、実際に。)
細めた眼は、刺さるような視線を放つ。

やだ、やめてよ。

「あかんなぁ、こんなこと聞きとうはないんや。でも、お前は…」


どくりと一際大きく鼓動を刻んだ後、呑み込んだ言葉は逆流する。


「っあ…──」


言葉を妨げたのは真っ白な手袋をした掌。口を緩く覆われ、私の身体はいとも簡単にひょいと一瞬宙に舞い上がり、怪盗の身に預けられた。
背中をキッドの胸に寄せ、後ろから優しく抱き留められる。それでも口元の手は私の発言を許さない。
耳元へ寄せられた彼の口から“大丈夫、任せて。”と温い吐息に聞こえる。

激しく脈打ったものは平常値に戻っていく。
唯一、身を任せていられる。


「…怪盗キッドが女子にご執心ってこっちゃ。」

「さぁ、どうでしょう。」

「あんまとぼけんなや。女喘がせて甘ったるい言葉を吐いて、
…今度は何をする気や。」

キッドがくっと笑いを吐き出す中、昨晩の出来事にただ頬が紅潮し、あまつさえ欲情さえしてしまう自身が嫌で仕方ない。


「悪趣味ですね、探偵サンは。」

「アホ言うな。煩うてしゃーないわ。」


参ったと言わんばかりにぼりぼりと頭を掻いて、表情を曇らせた。





この静かな裏道には、ただ肺を侵してしまうような悪質な空気が漂う。


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