小説
□想い
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あなたがどんなに変わろうとも、俺の気持ちは変わらない。
あなたのそばに一生居続ける。
俺はあなた以外は何も要らない。
想い
「総帥、そろそろ休憩をとってください。」
コンピューターの画面を見つめ、ひたすらキーボードに打ち込みをしていたシキにアキラが声をかけた。
すると、シキは無言で作業を続けたまま、
構うなとでも言いたいのか、
手をシッシッと追い払うかのように振った。
「いけません。休憩をとってください。」
「俺は平気だ。そんなに休みたいのなら休めばいい。」
「俺の事じゃ、ありません!あなたの事を言ってるんです!」
「フン」
シキは自分の言葉に少しむきになったアキラを嘲笑った。
そんなシキを見てアキラは少し頭にきていたが、そんな感情を抑え、静かに言い直した。
「お願いですから、休憩をとってください。2、3日は休暇をとっても、急ぎの仕事はないんですから問題ないはずです。」
「ならば、お前も休暇をとれ。」
「いえ、俺は結構です。」
「許さん。お前にも休暇をとらせる。命令だ。」
「…分かりました…。」
呆れながらも、主の命令に逆らう事など出来るわけがなく、渋々返事をするアキラだった。
結局、シキとアキラは3日間の休暇をとる事にした。
休暇初日の午前、
二人は軍服ではなく、ラフな私服を着ていて、部屋でくつろいでいた。
シキは机の前で読書をしていて、アキラはコーヒーを二人分つぎ、一つをシキの邪魔をしないように気を付けながら、そっと机の上に置いた。
そんな平和で穏やかな午前は、あっという間に終わってしまうのだった。
コンッ、コンッ
突然、ドアをノックされた。
「誰だ?」
「俺が出ます。」
シキが不機嫌そうに言うと、アキラは素早くドアの方に向かった。
「今、総帥は休暇中だ。そう言ってあるは…ず…」
ドアを開けたアキラは一瞬固まった。
「お願いです!!俺を軍に入れて下さい!!」
その訪問者はまだ小さな少年だった。
「何だ、貴様」
シキは椅子に座ったまま、怪訝そうに此方に目を向けている。
「お前、一体何処から…」
階ごとに警備兵を配置しているのだ。
侵入者はすぐに始末される。
ましてや、こんな子供が入って来られる訳がない。
「どうやって入って来たんだ?」
「裏口です。」
「裏口?そんなこと、兵士の中でも上級の者でなければ、知ることのが出来ない事だ。お前、一体どうやって…」
少年は座り込み、床に手をつけ、それから深々と頭を下げた。
「はい、ご無礼は承知の上で、上級と思われる方に術をかけて聞き出しました。」
「術?」
「はい、催眠術のような類いです。」
上級の者にそんな簡単に口を割らせるなんて…。
この少年は一体何者なのだろう?
「お願いします!!自分がどんなに重い罪を犯したのか分かっています!!
それでも…それでも、俺は軍に入るしかないんです!!
俺の戦闘の実力を見定めて下さい!!
それで駄目なら、切り捨ててもらっても構いません!!どうか、どうかお願いです!!」
少年は頭を床に押し付けて、話を続けた。
「俺はシキ様の役に立ちたいんです!!利用するだけでも結構です!!俺にはシキ様しか…ッ」
少年は消え入りそうな声で叫んだ。
そんな少年を、シキは見下すように見つめて
いた。
アキラは呆れと哀れみの眼差しで少年を見つめる。
他国の軍の組織に友人や肉親を虐殺された日本人はごまんといる。
その組織を此方の都合で壊滅させたとしても、肉親等を殺された側にとっては、敵をとってもらったも同然。
そうした理由で、シキを慕う者も少なくは無かった。
この少年も、大方そんなところだろう。
そんなことを考えていた矢先、シキが席を立ち、此方に向かってきた。
「顔を上げろ。」
「いいえ、見定めて頂けるまで顔を上げるわけにはいきません。」
「己の身のほどを知らん奴だな、そんなに死にたいか?」
シキは壁に立てかけていた刀を手にとり、鞘から刀を抜いた。
その刃先を少年に突きつける。
その時、鋭い刃先が少年の頬を掠めた。
しかし、それでも少年は微動だにすることもなく、頭を床に押し付けている。