Calme

□椿(赤花)
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花のように、私は、あなたに、
恋に落ちた─────……




「あれ? 准くん?」



夕暮れ時、出かけ先の帰り道で意外な人物を意外な場所で発見。



「お、イチカじゃん。どしたー?」
「いやいや、それ私のセリフだから。私普通に帰り道だし」
「イチカん家この辺だっけ?」
「うん。准くんこそこんなとこで何してんの?」
「俺? 俺は……」



って、准くんの視線を辿ると、そこには椿の花が咲いていた。



「椿好きなの?」
「何か目に入って」
「ふーん。椿といえば『椿姫』だね」
「そうなの?」
「知らない? 舞台劇。娼婦の椿姫とアルマン青年が出会って恋に落ちる話」
「何となく?」
「椿姫の本当の名前ってなんだっけ? なかったっけ? 椿が好きだから椿姫って呼ばれてるんだっけ?」
「うる覚えだ」



よくわかんなくなっちゃってその場を誤魔化す様に笑ってみせたら、准くんも合わせて笑ってくれた。



「椿の花ってさ……」
「ん?」



笑っていたと思ったら、今度は急にしゃがみ込んだ准くんをそのまま目で追う。



「枝から落ちても花が上に向いてんだよね」
「ん? そう言われれば」



地面に落ちてしまった椿の花を指先で突っついている准くん。
准くんの言葉に納得しながら、隣に並んでしゃがんでみた。
弄るのを止めない准くん。
私は黙って椿を見つめる。



「凄くない?」
「へ?」
「落ちても花であり続けようって意志なのかな?」
「あら、素敵。私そういう考え好き」



私の言葉を聞いて、准くんは声を出して笑い出した。
そんな准くんが意外に見えて、マジマジと見てしまう。



「何?」
「准くんでも声出して笑うんだなぁって思って」
「イチカは俺の事どんな人だと思ってたの?」
「うーん……根暗な人?」
「うわっ。そういうの本人目の前にして言う?(笑)」
「えへっ、言っちゃった(笑)。でも、そんなイメージだから声出して笑うより、さっきの言葉言ってる准くんの方が様になってるっていうか」
「何? それフォロー?(笑)」
「真実よ!」



無茶苦茶な事を言ってる私に、准くんはまた笑う。



「さっきのは受け売りだよ」
「そうなの? でも素敵だったから、准くんのにしちゃえばいいよ」
「しちゃえばいいって(笑)」



しゃがんでいるのに疲れて立ち上がると、准くんは落ちてる椿を拾った。



「イチカが椿姫知ってるとは思わなかった」
「え?」
「アルマンが椿姫に『次あなたに会えるのはいつ?』って聞くシーン覚えてる?」
「え?……あれ?」



私がさっき話した時は全然乗ってこなかったのに、急に准くんから椿姫の質問を受けて軽く混乱する。
真っ赤な椿の花を持っている准くんの立ち姿は様になっていて、質問されたからなのか、軽く混乱しているからなのか、何故か急に准くんを直視出来ないでいる自分がいる。
混乱しているせいで言葉なんて出てくるどころか、まとまらなくって声に出ない。


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